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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)10093号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

1  被告大東京火災海上保険株式会社は、原告に対し、七五三八万九四〇八円及びこれに対する平成六年四月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告三井海上火災保険株式会社は、原告に対し、三四六一万〇五九二円及びこれに対する平成六年四月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が、被告らとの間で締結した火災保険契約に基づき保険金請求をしている事案である。

二  争いのない事実

1  当事者

原告は、宅地の造成及び分譲等の事業を営むことを目的とする株式会社である。原告の実質的な代表者は、原告代表者の夫である甲野太郎(以下、「甲野」という。)である。なお、甲野は、株式会社甲ホームの代表取締役であり、原告が不動産を仕入れ、株式会社甲ホームが住宅分譲販売をするという役割分担をしていた。

被告らは、いずれも、火災、海上及び運送等の各保険の損害保険事業等を営むことを目的とする株式会社である。

2  火災保険契約の締結

(一) 被告大東京火災海上保険株式会社との間の火災保険契約

原告は、被告大東京火災海上保険株式会社(以下、「被告大東京火災」という。)との間で、原告所有の別紙物件目録記載の建物(以下、「本件建物」という。)を対象として、平成五年一一月二二日、保険金額八〇〇〇万円、保険期間一年とする火災保険契約を締結し、その後、平成六年三月二四日、保険金額三〇〇〇万円とする火災保険契約を締結して保険金額を合計一億一〇〇〇万円に増額した(以下、「本件保険契約(一)」という。)。

(二) 被告三井海上火災保険株式会社との間の火災保険契約

原告は、平成四年六月三〇日、被告三井海上火災保険株式会社(以下、「被告三井海上」という。)との間で、本件建物につき、保険金額五〇〇〇万円とする店舗総合保険契約を締結し、平成五年六月三〇日、この火災保険契約を保険金額五〇五〇万円として更新した(以下、「本件保険契約(二)」という。)。

3  火災の発生

本件建物は、平成六年四月五日午前四時ころに発生した火災によって、二階部分を全焼し、三階部分の一部と合わせて約三〇〇平方メートルを焼失した(以下、「本件火災」という。)。

4  本件建物をめぐる事情及び本件火災前の状況

(一) 本件建物及びその底地(以下、「本件土地建物」という。)は、かつて水戸政一が所有し、「ホテル三楽苑」と称して旅館として使用されていた。本件土地建物は、石川県の片山津温泉地域のはずれに所在し、周囲は、住宅、アパート及び寮等が建ち並ぶ住宅街である。

本件建物について、昭和六〇年二月二九日、金沢地裁小松支部において、競売開始決定がされた。

(二) 原告は、甲野の友人である赤松某から、本件建物付近の丘陵地を開発する予定があるので、その際の作業員宿舎として本件建物を使用するのがよいと勧められたことから、平成二年五月一四日、金沢地裁小松支部における不動産競売事件による売却に際して、本件土地建物を代金四八八九万円で買い受けた。

しかし、赤松某の計画は実現しないまま、同人は死亡した。

(三) 原告は、平成五年三月二九日、竹下與一に本件土地建物を売却することとし、代金決済のないままに所有権移転登記を先履行したが、同年一一月一五日、錯誤を原因として所有権移転登記の抹消登記手続をした。

(四) 原告は、平成六年二月、原告と同じビルに居住する請負業者乙山建設こと乙山二郎(以下、「乙山」という。)に本件建物の内装工事を依頼した。その際、請負契約書は作成されず、請負代金については、見積りもされずに実費払いであり、当初から内装工事の簡略な図面はあるものの、仕切書、見積書、確認申請書類等は提出されていなかった。

なお、原告には、内装工事完了後の本件建物の具体的な利用契約や賃貸先又は転売先が決まっていたわけではなく、また、商談中という事実もなかった。

(五) 内装工事の内容は、本件建物の一階ロビー廻り、フロント、階段及び二、三階の間取りの変更等であった。

乙山は、同年三月一七日ころ、内装工事を開始した。乙山は、まず本件建物の古い内装の解体工事に着手し、順次解体廃棄の処分を行いつつ、約一週間後には下地工事に着手した。

本件建物の屋上には変電設備があったが、乙山は、消防法所定の電力会社への連絡をせず、本件建物内の電気を使用しないで、持込みの発電機を用いて、天井、廊下等の壁等に合板(コンパネ)を釘打ちする作業を実施した。

内装工事においては、天井・壁下地共に、厚さ一二ミリメートルの合板(コンパネ)が使用されたが、これは、本来、不燃材料又は準不燃材料を用いることを予定した建築基準法に違反するものであった。

(六) 乙山ら工事関係者は、下地工事が約一割未完成のままで、その余の改装工事の業者及び工事態様も未定のまま、本件建物から引き揚げていた。

5  本件火災の状況

(一) 本件火災は、平成六年四月五日午前四時八分ころに発生した。

(二) 鎮火時の本件建物の状況

(1) 一階部分の壁、天井及び床は、消火水による水濡れと汚損が認められるだけで焼燬箇所はほとんどなかったが、一階から二階への階段部分は、ステップの汚損が激しく、二階部分にかかる壁体と階段の手摺部分に焼け込みがあり、踊り場に残存していた燃え殻からは、熱的変化を受けた灯油が検出された。

(2) 二階の階段口から東方向に延びる通路及びエレベーターホール部分の床面には、細かい炭化物が付着しており、エレベーター側壁体には、約四〇枚のベニヤ板が立て掛けられ、その表面が焼けて炭化していた。特に最表面のベニヤ板の焼けは著しく、上半分が焼失し、その焼け切れ部分は、階段口方向が深く、階段口方向からホールに向かって燃えた痕跡があった。

(3) 前記エレベーターホール前には、油類の入った二〇リットル入りポリ容器の残存物があり、その容器の下には一枚の畳がエレベーターと平行に敷かれており、畳はほとんど炭化焼失状態にあった。

(4) 二階から三階への階段部分の内装材は、全体的に焼失し、軸組の鉄骨材が露出し、手摺の木部も全体的に焼け込みがあった。

(5) 三階の通路及びホール部分の焼けは、二階と比較して表面的であり、四階は、熱的変化を受けているに止まっていた。

(三) 出火場所

本件火災の出火場所は、本件建物の二階から三階の階段の踊り場付近であった。

(四) 本件火災当時、本件建物に人は居住しておらず、内装工事に従事していた関係者も出火の三〇時間以上前に作業を終えて本件建物から出ていた。

(五) 内装工事作業中、ストーブ等は使用されておらず、本件建物の電気設備は使用不能の状態にあった。また、本件火災は漏電による出火形態ではなかった。

(六) 本件火災の燃焼形態は、長時間燻焼して出火したというものではなく、短時間のものであった。

(七) 本件建物の設備から、火源又は火源となる可能性のあるものは発見されなかった。

(八) 加賀市消防本部の消防司令補は、火災原因判定書において、本件火災の原因につき、「誰かが建物内に侵入し、何らかの方法で火気を使用したもの」と推定している。

6  原告の経営状況等

(一) 原告には、本件火災当時、約九億円の負債(長期借入金)があった。

(二) 甲ホームは、平成元年から平成三年ころにかけて、法人税を脱税し、一億二四〇〇万円の追徴課税を受けた。

7  甲野の保険事故

甲野は、平成五年三月二日、同人所有の自動車(ランボルギーニカウンタック)の盗難に遭った。

同車には、被告三井海上の車輛保険が付けられており、被告三井海上は、同年四月三〇日、甲野に対し、保険金として二八〇〇万円を支払った。

その二日後である同年五月二日、上記盗難車が発見されたが、甲野は、それを引き取ることを断った。

8  免責約款

(一) 本件保険契約(一)について

(1) 故意免責

本件保険契約(一)の約款二条一項一号には、「保険契約者、被保険者又はこれらの者の代理人(保険契約者又は被保険者が法人であるときはその理事、取締役又は法人の業務を執行するその他の機関)の故意若しくは重大な過失又は法令違反により生じた損害に対しては、被告大東京火災は保険金を支払わない」旨が規定されている。

(2) 告知義務

ア 本件保険契約(一)の約款七条一項には、「保険契約締結の当時、保険契約者又はその代理人が、故意又は重大な過失によって、保険契約申込書の記載事項について、被告大東京火災に知っている事実を告げず又は不実のことを告げたときは、被告大東京火災は、書面による通知をもって保険契約を解除することができる」旨が規定されている。

イ 原告は、本件保険契約(一)を締結した際、既に被告三井海上との間で、本件建物について同種の火災保険契約(本件保険契約(二))を締結していたが、被告大東京火災に対してその事実を告知しなかった。

ウ 被告大東京火災は、原告に対し、平成六年五月二日付書面をもって、本件保険契約(一)を解除する旨の意思表示をした。

(二) 本件保険契約(二)について

(1) 故意免責

本件保険契約(二)の約款二条一項一号には、「保険契約者、被保険者又はこれらの者の代理人(保険契約者又は被保険者が法人であるときはその理事、取締役又は法人の業務を執行するその他の機関)の故意若しくは重大な過失又は法令違反により生じた損害に対しては、被告三井海上は保険金を支払わない」旨が規定されている。

(2) 通知義務

本件保険契約(二)の約款一七条一項一号には、「保険の目的と同一の構内に所在する被保険者所有の建物について、他の保険者と、店舗総合保険その他火災事故等を担保する保険契約を締結するという事実が発生した場合には、保険契約者は、事実の発生がその責に帰すべき事由によるときはあらかじめ、責に帰すことのできない事由によるときはその発生を知った後遅滞なく、書面をもって、その旨を被告三井海上に申し出て、保険証券に承認の裏書を請求しなければならない」旨が規定され、同条二項には、「前項の手続を怠った場合には、被告三井海上は、前項の事実が発生した時又は保険契約者若しくは被保険者がその発生を知った時から被告三井海上が承認裏書請求書を受領するまでの間に生じた損害に対しては、保険金を支払わない」旨が規定されている。

三  原告の主張

1  本件火災により原告が被った損害は、一億一〇〇〇万円である。

2  上記損害額を、本件保険契約(一)及び本件保険契約(二)の各保険金額で按分すると、支払われるべき保険金は、本件保険契約(一)について七五三八万九四〇八円、本件保険契約(二)について三四六一万〇五九二円である。

3  よって、原告は、被告大東京火災に対し、本件保険契約(一)に基づき、七五三八万九四〇八円及びこれに対する平成六年四月六日(本件火災の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告三井海上に対し、本件保険契約(二)に基づき、三四六一万〇五九二円及びこれに対する平成六年四月六日(本件火災の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  被告らの主張

1  被告大東京火災

(一) 原告の故意による事故招致に基づく免責

次の事実からすれば、本件火災は、原告の実質上の経営者である甲野又は同人の指示による放火であるから、本件保険契約(一)の約款二条一項一号により、被告大東京火災は、保険金支払義務を免れる。

(1) 本件土地建物は、もともと競落によって取得されたものであるが、バブル経済が崩壊した結果、原告は、当初の目論見が外れてその用途に困窮し、空き家のまま放置され、その処分を含む換価も容易にできない状態であった。

(2) 原告は、競落後二年間無保険状態のままであった本件建物に、取得価格の二倍以上の建物火災保険をかけた。

(3) 本件建物に可燃性のベニヤ板等の材料による内装工事が行われた直後、放火が原因とされる本件火災が発生した。

(4) 本件火災の保険金による利益の帰属主体は原告である。

(5) 原告の実質上の経営者である甲野は、本件火災の約一年前に、ランボルギーニカウンタックの車輛盗難事故に遭い、保険金二八〇〇万円の支払いを受けたが、盗難車輛が発見されたにもかかわらず、車輛の受取りを拒否し、保険金を返還しなかった。

(二) 原告の重過失による事故招致に基づく免責

仮に、(一)の主張が認められないとしても、本件火災及び損害は、原告代表者及びその夫であり実質上の経営者である甲野らの重過失によるものである。すなわち、次のとおり、原告代表者らは、無人かつ無施錠の本件建物内部に、ベニヤ板及び建築資材等の可燃物を積み上げたうえ、ガソリン等の危険物を近くに放置し、かつ、無施錠の状態で第三者の侵入を容易にしていた結果、放火による本件火災が発生したのであるから、原告代表者らの一連の行為は重過失というべきであり、被告大東京火災は、本件保険契約(一)の約款二条一項一号により、保険金支払義務を免れる。

(1) 原告の指示を受けて内装工事を行っていた乙山らは、本件建物内部に可燃性の高い塗料や工事用材料を放置し、かつ、階段口から入った通路両側にはベニヤ板を立てかけ、その付近に発電用燃料に使用するガソリンを入れたままの容器を放置していた。

(2) 本件建物は、競落後、使用されたことはなく、無人のまま放置されていたことから、所轄の大聖寺警察から、保安上危険であるとして注意をされていた。

(3) 競落当初から、本件建物の正面玄関の鍵はなく、正面玄関の自動ドアは手で開けることができた。

(4) 甲野は、火災保険加入時、保険代理店から勝手口のドアが開いていることを指摘され、本件火災直前である平成六年三月一三日、自ら、鍵が壊れていることを確認していた。

(5) 甲野は、正面玄関の施錠や勝手口の鍵の補修等をしなかった。

(三) 原告の重複保険告知義務違反を理由とする保険契約の解除

(1) 争いのない事実8(一)(2)イは、原告の故意に基づくものである。

(2) したがって、被告大東京火災は、争いのない事実8(一)(2)ウのとおり、本件保険契約(一)を解除したことにより、保険金支払義務を免れる。

2  被告三井海上

(一) 原告の故意による事故招致に基づく免責

1(一)(1)ないし(5)の事実からすれば、本件火災は、原告の実質上の経営者である甲野又は同人の指示による放火であるから、本件保険契約(二)の約款二条一項一号により、被告三井海上は、保険金支払義務を免れる。

(二) 原告の重過失による事故招致に基づく免責

仮に、(一)の主張が認められないとしても、1(二)(1)ないし(5)の事実からすれば、原告は、本件建物が、いつ何者によって侵入され、放火をされてもおかしくない状態にあることを知りながら、これを放置し、その結果、放火により本件火災が発生したのであるから、本件火災を招致したことについて重過失があるというべきであり、被告三井海上は、本件保険契約(二)の約款二条一項一号により、保険金支払義務を免れる。

(三) 原告の通知義務違反による免責

(1) 原告が被告大東京火災との間で本件保険契約(一)を締結した事実は、本件保険契約(二)の約款一七条一項一号に該当するから、原告は、被告三井海上に対し、承認裏書請求をしなければならない。

(2) 本件火災は、上記承認裏書請求がされるまでの間に発生したものであるから、被告三井海上は、本件保険契約(二)の約款一七条二項により、保険金支払義務を免れる。

五  主な争点

1  本件火災は、原告の故意によるものか。

2  本件火災は、原告の重過失によるものか。

3  原告に、重複保険の告知義務違反又は通知義務違反があったか。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  争いのない事実のほか、証拠(甲一の1・2、甲二の1・2、甲七の2・7・8、甲八、甲一三の1・2、甲一六ないし二〇、甲一二の2、甲二二、乙一の1・2、乙九、証人中谷恒行、証人野々村眞一、証人玉井博、証人甲野太郎、証人乙山二郎)によれば、次の事実が認められる。

(一)(1) 原告の実質的な代表者である甲野は、本件建物につき、既に本件保険契約(二)を締結していることを知りながら、本件保険契約(一)を締結した。

(2) この点、原告は、本件保険契約(一)は、甲野自身が契約締結の手続をしたが、本件保険契約(二)は、甲野の知らないうちに、原告の従業員が契約の手続をしたものであると主張し、証人甲野はこれに沿う証言をする。

しかし、一従業員が(実質上の)代表者に相談もなく勝手に保険料の支払を要する保険契約を締結するとは通常考え難い。また、証人甲野は、被告大東京火災との問の本件保険契約(一)の契約書について、当法廷において、いったんは、「契約書に押印したのは従業員である。自分なら、甲ホームと甲ハウス(原告)の判を押し間違えるようなことはない。」旨の証言をしながら、後には、「被告大東京火災との保険契約を締結したのは、自分である。判を押したのは自分である。」旨の証言をしており、明らかに矛盾する内容の証言を断定的にする供述態度が見受けられる。

これらの点に照らすと、「本件保険契約(二)は、甲野の知らないうちに、原告の従業員が契約の手続をしたものである」旨の証人甲野の証言は、信用することができない。また、これと同旨の乙第九号証も信用することができない。

(二) 乙山により施された本件建物の内装工事は、内装の下地として天井及び壁にコンパネと呼ばれる合板を釘で打ち付けたものであったが、錆が生じるため通常は使用しない鉄釘を使用し、また、釘打ちの間隔が大きくかつ不揃いであり、合板の合わせ目にずれがみられる等、杜撰なものであった。

コンパネは、コンクリート型枠用合板であり、床の下地板に用いられることもあるが、耐火性はないものである。

本件火災においては、壁に立てかけられたコンパネにより、上方へ延焼しやすい状態となっていた。

(三) 乙山は、本件火災の二、三年前、甲野の経営する甲ホームの事務所のあるマンションに居住し始め、甲野と知り合った。

乙山は(大阪府豊中市内に事務所を構える)、コンクリートを形成する際に使用される型枠の請負や解体作業を専門とする業者であって、内装工事に従事したことはなかった。

(四) 原告は、本件火災後、被告大東京火災から依頼を受けた調査会社に対し、決算書を提出したが、その内容は、売上高が真実の約二倍に粉飾されたものであった。

原告は、平成二年以前から約九億円の借入金があり、利息の支払も遅れがちであった。

また、決算書中、原告の資産として最も金額が高い項目は販売用不動産であるが、取得価格で計上されており、評価額の下落のため、決算書に計上された数額どおりの価値はなかった。

(五) 甲野が盗まれた自動車(ランボルギーニカウンタック)は、甲野が被告三井海上から保険金を受取った二日後、通報により、路上駐車されているところを発見された。

被告三井海上は、甲野に対し、発見された自動車の引取りと保険金二八〇〇万円の返還を求めたが、甲野はこれを拒否した。

そこで、被告三井海上は、同車を一〇〇〇万円で売却処分した。

2  これらの事実及び争いのない事実から本件火災の原因を検討すると、本件建物は、平成二年に原告が取得してから本件火災に至るまで、空き家のまま放置され、転売又は賃貸の予定もない物件であったこと、原告は、本件建物取得時に本体建物に火災保険をつけなかったが、約二年後の平成四年六月になって、被告三井海上との間で本件建物につき火災保険契約を締結し(本件保険契約(二))、さらに、平成五年一一月に、被告大東京火災との間で同一物件につき重複して火災保険契約を締結していること(本件保険契約(一))、本件火災は、本件保険契約(一)の保険金額が平成六年三月二四日に増額された直後に発生していること、この保険金額の増額は本件建物に内装工事が施されることを理由とするものであった(甲一七、証人玉井博、証人甲野)が、この内装工事は、転売や賃貸の目的がないにもかかわらず、原告の実質上の代表者である甲野が、知人の型枠大工を大阪府から石川県まで派遣して行わせたものであり、その工事内容は極めて杜撰であったこと、この内装工事で施された可燃性の合板が本件火災の燃焼を少なからず助長していること、原告の当時の資産状態は、販売用不動産の評価額が下落する一方で借入金の金利負担がかさむ等、資金難にあったこと、本件建物は、競売により安価に取得した物件であったため、保険金額は本件建物取得価格の二倍以上にのぼり、保険事故の発生は原告にとって非常な利益となること、甲野は、本件火災の約一年前に、車輛盗難により保険金の支払を受けたが、支払の直後に発見された盗難車輛の引取りと保険金の返還を拒否したこと、及び本件火災は、前記争いのない事実からすると、建物内部に灯油をまいて着火するという放火によるものと推定されるが、当時、周辺地域で不審火が頻発していたとか本件建物を狙って放火をする動機をもつ者がいたとのことを示す証拠もないことから、第三者による放火の可能性が低いことを総合すれば、本件火災は、原告の実質的な代表者である甲野又は同人の指示を受けた者による放火によるものと推認するのが相当である。

二  よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田昭孝 裁判官 村上正敏 裁判官 冨上智子)

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